《2015年3月6日発売》“日本近代体育”の草創史

 

時空を超えて
―甦る、幻の体操伝習所体操場

大櫃敬史/著

本体3,000円+税
A5判上製
128ページ
ISBN 978-4-906740-14-7 C0075

豊富な図版で回顧する、日本近代体育の夜明け

  • 明治11年に創立された、わが国初の体操教育専門施設「体操伝習所」。その屋内体育館として同時に誕生したのが「体操伝習所体操場」です。本書は、長年にわたり幻の存在とされてきた「体操伝習所体操場」の設計図を発見した北海道大学教授(体育史)の著者が、その全貌を図版をふんだんに使い解明したものです。
  • 同時に、北海道大学の前身である札幌農学校が大きな役割を果たした、“日本近代体育”の夜明けを紹介。運動会に始まり、野球、スケート、スキーなど、札幌農学校が日本におけるルーツとなったスポーツについても取り上げています。
  • さらに、米国がルーツの日本近代体育をリードした先進モデル校(同志社・体操伝習所・札幌農学校)の特徴と、そこに大きな影響をもたらしたアメリカのアマースト・グループと近代体育の導入に尽力したアメリカ人教師たちの存在を明らかにします。

▼明治11年に誕生した日本初の屋内体育館「体操伝習所体操場」(アマースト大学蔵)

▼著者が京都大学で発掘した「体操伝習所体操場」の設計図など各種資料

▼発見された設計図から復元された「体操伝習所体操場」の模型内部には、体操器具まで再現されている(撮影:谷口勲)

目次

I プロローグ
新資料『體操場新営参考書類』の発掘/資料との出会い/札幌農学校にはじまる近代体育・スポーツ/アマースト・グループと体育先進モデル校/復元模型の作製とその後
II 資料との出会い
わが国初の体操教育専門施設「体操伝習所」/京都で発見した貴重な資料/資料の活用法―復元模型の作製へ
III 札幌農学校にはじまる近代体育・スポーツ
明治日本における近代体育・スポーツ史/体操のはじまりは軍隊体操から/画期的だった遊戯会の開催/野球のはじまりは開拓使仮学校/寒冷地スポーツのはじまり―スケート・スキー
IV アマースト・グループと体育先進モデル校
同志社―体操の実施、「フットボール」「玉投げ」の紹介、体育館の創設/体操伝習所―アマースト方式の体育の導入/札幌農学校―クラーク招聘と軍事教練の重視、お雇い外国人教師の交流/わが国の近代体育をリードしたアマースト・グループ=アマースト大学:科学的指導法の導入とリーランドによるアマースト体育の伝達、マサチューセッツ農科大学: 軍事教練の重視と配属将校制度の導入、ウィリストン・セミナリー: アマースト大学モデルの教育方針と体育の重視
V 復元模型の作製とその後
立体的構造物としての体操伝習所体操場
VI エピローグ
ダリア・ダリエンゾ氏(元アマースト大学特別資料室室長)との出会い
VII 本書関連資料
バレット体育館関連図版/バレット体育館設立経緯関連資料/G・A・リーランド関連資料/体操伝習所体操場関連資料/体操伝習所体操場の各種設計図

まえがき

 本書は、著者が長年研究を続けて来た、その成果の一端を記したものである。歴史研究に携わる者にとって、新資料の発掘は研究の主要な部分を占める言わば生命線の様なものである。いくら高尚なテーマを立ててみたところで、それを立証する物証に恵まれなければ、途中でその計画を断念すること等、枚挙に暇がない。その意味では、本書は「テーマ」「物証」「成果」が見事に一致した極稀な一例といえよう。
 2000年6月、京都大学総合人間学部図書館で体操伝習所体操場(後述)新営に関わる仕様書、設計図、使用用具及び全体平面図・見取図を含む大量の纏まった資料群が発見された。
 これまでに体操伝習所体操場に関する研究は、すでに能勢修一、木下秀明(日本近代体育史)らの先行研究において見られるものの、設計図書が不在であったため平面規模の概要や伝習所を模倣した大阪中学校体操場からの推測といった方法によってのみ捉えられて来た。その結果として体操伝習所体操場の一部を大阪中学校体操場と混同するという事態が生じたものと見做される。
 今回分析に用いる資料『體操場新営参考書類』は、大阪中学校体操場建設の際、伝習所から入手した設計図書と考えられる(仕様書の末尾に、「第四大区二小区一橋通町二番地内江新営之事」との記述が見られ、「明治十一年十一月」の日付から、また仕様書を記述した罫紙自体に体操伝習所の銘が入っていることから体操伝習所体操場の仕様書そのものである事が判明した)。
 本書では新しく発掘された資料を手がかりに、新たに建築史分野(北海道大学工学研究科建築史意匠学角研究室〔当時〕)の知見を加えて、体育史及び建築史の共同研究として諸課題に取組んで来た結果である。(以下略)

著者プロフィール

大櫃敬史(おおびつ・たかし)
1949年島根県に生まれる。1975年東京学芸大学教育学部卒業。78年、教育学修士(東京学芸大学)。1995年から1年間、米国連邦議会図書館およびメリーランド州立大学教育政策・人間価値学国際センターにおいて文部省在外研究に従事。専攻は日本近代教育史・比較体育史。北海道大学および大学院で、体育史・比較体育史を27年間に渡って教える。現在は特任教授。主要著作に『近代日本体育の父リーランド博士―アマースト大学と体育教育の成立』(紫峰図書 2003)、「アメリカン・ボード日本ミッションの活動と日本近代体育の成立」(体育史専門分科会 2005)、『写真でつづる教育学部50年―21世紀を展望して』(北海道大学教育学部創設50周年記念事業委員会 1999)、ほかに「体操伝習所体操場の復元模型(縮尺1/50)」(2011)の作製等。
※上記内容は本書刊行時のものです